妊娠中・出産後に能登半島地震で被災。あのとき欲しかった防災グッズ

2024年1月1日に、石川県能登地方において発生した「令和6年能登半島地震」。輪島市や志賀町などで震度7の揺れを観測し、多くの死者、負傷者、住宅の倒壊などの被害が出ました。私は、2023年5月5日に珠洲市で発生した最大震度6強を観測した「令和5年奥能登地震」の際には妊娠中で現地に、2024年1月1日には子連れで富山県にいました。どちらの地震においても、妊娠中及び子連れの避難がどれだけ大変か学びました。
この体験から、被災したときに欲しかった防災グッズや防災準備について紹介します。防災の日に合わせ、もしものときの備えに、確認してください。
妊娠中は珠洲、出産後は富山で被災
私は、2023年5月5日に起こった最大震度6強の「令和5年奥能登地震」の際、珠洲市にあった夫の自宅にいました。地震が起きたのは、午後2時42分頃。夫は外出中で、家には私1人だけでした。
妊娠7ヶ月でおなかも大きく、腹帯をつけて、休み休み部屋を掃除している最中のこと。急に体がふわっと上がったと思うと、激しい揺れがやってきたのです。身体が床に叩きつけられた後、本棚、テレビ、立て鏡などが一斉に倒れてきました。揺れから数秒遅れて鳴り始めた緊急地震速報を知らせるスマホをしり目に、慌てておなかを体でかばい、そのままうずくまりました。
揺れが収まったころ、「とにかく逃げなければ」と思い、床に落ちていたペットボトルやタオル、服、スマホなどをリュックにとにかく詰め込んで、近くの公民館に避難。避難してきた高齢者の方たちと座布団を並べ、激しい胎動を感じながら不安な一夜を明かしました。
2024年1月1日の「令和6年能登半島地震」においては、富山の両親、生後5ヶ月の娘と実家で被災しました。
元旦に放送していたお笑い番組を家族みんなで見ていたときのこと。緊急地震速報のサイレンが鳴ると同時に、大きな横揺れがやってきました。天井からパラパラと木くずが落ち、部屋の壁がひび割れ、床が傾き、棚に置いてあったものが上から落ちてきたのを覚えています。私は子どもと一緒に机の下に隠れ、両親は頭に座布団を乗せて揺れが収まるまで過ごしました。
長い揺れがようやく収まったころ。テレビで、私が以前住んでいた輪島市や珠洲市の家屋が倒壊する映像と共に、「津波がきます」と放送されているのを見て、両親と、大泣きする子どもを連れて近くの学校へ避難。しかし、1時間以上経っても避難先の学校があかなかったため、山間にあって津波の心配がなく、被害も少なかった祖父母の家へ逃げました。
テレビでは、私が1年前まで毎日のように通っていた輪島朝市が火に包まれる様子、半年前まで住んでいた珠洲市の家屋が倒壊する様子が報道されています。ひっきりなしに鳴る地震警報、揺れるたびに不安そうに泣く娘…。何も考えられませんでした。
「あのとき欲しかった」妊娠中・出産後の防災グッズ5選
妊娠中及び子連れで大きな地震を2度体験した私が、「あのとき欲しかった」と感じた防災グッズ5つと被災中のエピソードを紹介します。
●頻尿になる妊娠中には必須「簡易トイレ」
私は、妊娠中はかなりトイレが近くなるタイプで、30分に1回は用を足しに行っていました。「令和5年奥能登地震」が起きた際、珠洲市の私が住んでいた場所では断水せず、お手洗いにも困りませんでしたが、「妊娠中にトイレに行けなかったら」と考えるとゾッとします。「令和6年能登半島地震」の発生時に珠洲市や輪島市にいた知人からも、「何よりトイレを我慢するのが大変だった」と聞きました。もしものために、最低でも全員分×3日分は簡易トイレを用意しておきたいです。
●子どもでも食べやすい物を用意したい「非常食」
「令和5年奥能登地震」が起きた際は、公民館にいた職員の方が、避難者に夕飯としてアルファ米のひじきご飯を用意してくれました。しかし、地震から一夜明け、その日以降の食料を買いに行こうとコンビニやスーパーへ行ったときには食品棚は空っぽ。お酒やたばこなどの嗜好品、モバイルバッテリーやイヤホンなどのガジェット類も売り切れていました。地震が起きてからではなく、「事前にもっと食料を確保しておけば焦らずにすんだ」と強く感じました。
つわりのある妊娠中や、食べられるものが限られる小さい子どもを連れて避難するときは、自分や子どもに合った「非常食」を用意しておくと安心です。
●簡易的な枕や授乳クッションにも「クッションや枕」
妊娠中はおなかが大きくて重かったため、私は、眠るときに抱き枕やクッションでおなかを支えていました。災害で避難した先では、避難者全員分の布団が用意されていない可能性があります。私が「令和5年奥能登地震」で避難した公民館においても数が足りず、結局座布団を重ねて眠りました。もちろん、クッションや枕はありません。「いつまた地震が来るか分からない」という緊張もあり、おなかも重くて寝苦しく、十分に睡眠をとることができませんでした。
クッションや枕は、寝るときにはもちろん、授乳クッションにも使えるので用意しておくと便利だと感じました。
●多用途に使える「タオル」
暑いときは汗を拭いたり、たたんで重ねれば枕になったり、授乳中の目隠しや子どもの簡易的なオムツにも使えるタオル。私は1枚しか持っていませんでしたが、「もっと枚数が欲しかった」と思った防災グッズです。持ち運びに便利な圧縮タオルなら、防災リュックに入れてもかさばらないのでおすすめです。
●精神的な安定が大事「お気に入りのもの」
ライター提供2507
災害時に1番「欲しい」と感じたのは、自分が精神的に安心できるお気に入りのアイテムでした。私は、文章や絵を書くためのメモ帳とペンをいつも持ち歩いていたので、妊娠中に避難した際も、出産後に子連れで逃げた際も「持ってこれば良かった」と感じていました。子どもと一緒に避難した際も同様です。娘が地震のたびに不安そうにしていたので、お気に入りのガーゼハンカチや歯固め、絵本などを持ってきていれば安心させてあげられたと思います。
今から取り組みたい。妊娠中・子連れで避難するときの防災準備
妊娠中や子連れで避難するときには、防災グッズを用意するのはもちろん、防災準備も十分にしておくと安心です。今のうちに以下の3つをチェックしておきましょう。
●本当に必要なものを入れた「防災リュック」
前の章で紹介した簡易トイレや非常食などのほか、ヘルメットや救急セット、着替えなど、自分や家族に必要だと考えられるものを入れた防災リュックを作っておくと安心です。
ただし、防災リュックの重量には要注意。私の両親は、しっかり防災リュックを作っていたにも関わらず、物を入れ過ぎてかなり重くなっており、避難時に持ち運ぶのが大変そうでした。防災リュックを作ったら、緊急時でも背負って走ることが可能な重さか確かめておいてください。
●見落としがちな「家の防犯」
災害時には、悲しいことに、避難した方の家財やお金を狙う人が多くやって来ます。災害時には、自分の命を守ることがもちろん1番大切ですが、それと同時に可能な範囲で家の戸締まり、貴重品の管理も意識しておくことが重要です。災害に乗じた詐欺や空き巣の被害を防ぎ、二重で傷つかないように防犯対策をしておきましょう。
●家族や保育園・幼稚園と確認「地域の防災情報」
防災リュックを準備し、自宅の防犯を完璧にしておいても、「どこに逃げたら良いか」を把握していなければ、迅速に避難することができません。「令和6年能登半島地震」において、いとこ家族は同じ家から避難したにも関わらず、なぜか別々の場所へ向かってしまいました。連絡がついたので会うことができましたが、「もし携帯の充電が切れていたら」「安否確認ができなかったら」と考えると背筋が寒くなります。自宅から近い避難場所はどこか確認し、家族とどこの避難場所で落ち合うか決めておくと安心です。子どもが保育園・幼稚園、習い事などに通っている場合は、それぞれが緊急時に避難する場所を聞いておくのもおすすめです。
ただし、災害時は道路の倒壊や陥没などにより、想定していたように避難できない可能性も。命を守ることを優先し、臨機応変に避難してください。
広島県のハザードマップはこちら▼
https://www.bousai.pref.hiroshima.lg.jp/hazardmap
能登はやさしや土までも。被災した能登の方たちに伝えたい思い
「令和6年能登半島地震」が発生してから、あと約3ヶ月で2年を迎えます。地震発生から数日後、珠洲市や輪島市に住む知人に安否の連絡を取ったときに、「何もなくなってしまった。何も考えられない。何も考えたくない」と話していたのを鮮明に覚えています。今も、復旧・復興が進んでも、心に傷は残り続けていると思います。
先日、奥能登に住んでいたときに、輪島の朝市でお世話になった人から、「また今度来たら魚こうてね。朝市で待っとるよ」と連絡が来ました。珠洲市に住んでいる知人から「またいつでもいいから遊びに来いよ」と電話がありました。働いていた思い出の場所や家がなくなって、心が傷ついていても、奥能登に住む人たちの言葉の中には「また」がある。能登に住む方の優しい心が生み出す「また」が、奥能登の未来をつなぐ力になっているのだと感じました。
記事を書くにあたり、お話を聞かせてくれた方及び写真を提供していただいた方に心より感謝申し上げます。
防災の日に「もしも」を備えて
災害はいつ起こるか予想できません。体を動かすだけで精一杯になる妊娠中や、小さい子どもを連れて逃げなければいけないときに地震が起こるかもしれません。自分と大切な家族の命を守るために、防災リュックの準備、家族との避難場所の共有などは欠かせません。今日、防災の日に「もしも」を考えて、災害が起きたときの準備を家族で見直してみてくださいね。
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担当ライター